日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

「海外盤CD輸入禁止」問題〜その2

「海外盤CD輸入禁止」問題について、id:doy さんとこのコメントに 『この問題は本質的には、音楽事業者が音楽市場を「コントローラブル」にするために、究極的には輸入盤を廃止し、全ての状況を単純化したいがための一手ではないかと考えています(音楽のネット配信も視野に入れつつ)。なので、僕は「安いCDが買えなくなる」とか、「CCCDがどうこう」っていう「表層的」な問題ではないと考えています。だからすごく悲観的なのです・・・』 と書きましたが、これでは全然言葉足らずなので、自分の頭をウンウン捻って、自分の言葉でもう少しきちんと意見表明しておこうと思いますです。


まず、何故に僕が「海外盤CD輸入禁止」問題について悲観的、即ち実際に禁止される可能性が高いと考えているかについて説明しますと。

当方のモノの見方の基本には、「人々はある時点でどんなに反対していても、結局ながら状況に順応してしまう」ものであり、為政者や経営者はこのポイントをまずもって「よく理解している」という認識が前提にあります(例:消費税導入時にあれだけ消費者運動がおきたのに、5%に上がる時には抵抗がゆるくなり、今では誰もが消費税を当たり前に感じている、とか)。なので、「海外盤CD輸入禁止」も段階的に施行〜最終的には全面的に禁止されたとしても、結局はそうした状況に人々は順応してゆくだろうと、音楽事業者(経営者)は考えているだろうし、僕も思っています (こうした人間観は、いちいちハイデガーの存在論とか、ナチスがいかにして政権を獲得して行ったか、とかを説明に持ち出さなくても判るレベルの話だと思うので、これ以上は立ち入って論を展開しませんが・・)


では、僕が何故に「音楽事業者(経営者)は、輸入盤を全面規制したいと考えている」と推定しているかというと、音楽事業者にとっては、現在の音楽マーケットが、ネット上での違法ファイル普及も含め非常に OUT OF CONTROL な状況にあるので、なんとかしてコントロール可能な状況を取り戻したいと、(彼らが)考えているように思えるからです。

思い返せば、少なくとも80年代半ば(プラザ合意→急激な円高)ぐらいまで、輸入盤はそんなに安くはなかったし(むしろ高かった)、そもそも輸入盤屋もそれほど多くなかった。そして、一般リスナーにとって洋楽との接点は、音楽ライター/編集者が雑誌やラジオ、MTV等で紹介するもの、全米や全英のヒットチャートに登場するものに限定されていたと記憶しています。なので、音楽事業者にとっては、音楽ライター/出版社をコントロール下において置けばマーケティングは非常に簡単に行えるし、また接点が限定されている以上、リスナーの嗜好が細分化されることもないので「マーケティング」も「マス」に対して行っておけばよかった(=レコード会社のA&Rの担当者にとっても、単に海外で話題のモノを国内に紹介する程度の「戦略」で充分マーケティングとしては有効に機能していたのだと思います)。そして、結局その頃の人々は、選択肢として基本的には国内盤を買うほかなかった、という具合に「売上も嗜好も」音楽事業者にとっては非常にコントロールしやすい、彼らにとって非常に「牧歌的」な状況にあったのは確かです。


ところが、85年のプラザ合意以降の急激な円高と、米国他からの「日本市場開国」論を起点に、輸入盤価格の下落と海外大型輸入盤店の本格的な進出がはじまった頃から状況は変わりました。つまり、多様な輸入盤が豊富かつ安価に市場に出回るようになったことで、都市部の一般リスナーにとって海外音楽との接点が爆発的に増加しました、また並行して独自のセンスで輸入盤をセレクトして販売する小規模の輸入盤屋さんが渋谷や新宿に次々に登場してゆきました。こうした流れの中から、フリッパーズ・ギターの二人に象徴的な「洋楽マニア」が登場し、「渋谷系」というムーブメントに発展して行きました。ここでの肝は、こうした興隆が、WAVEとかの大規模輸入盤屋の店員や、VINYL、ZEST、CISCO等の小規模の輸入盤屋さんを起点にしていることです。ここに至って、音楽事業者の「牧歌的なマスマーケティング」は、機能しなくなります。「舶来のエッジな品を紹介する」というアンテナ的な機能は、独自センスで音楽を探求するSHOPやその店員の前に、音楽事業者お抱えの音楽ライター含めて形骸化し、さらには、海外ヒットチャート上位の売れ筋商品も安価な輸入盤にその売上が食われるという状況になりました。さらに追い討ちをかけるように、従来の音楽市場の主力ターゲットであった若年層の90年代後半からのCD購入離れの如実化と、ネット上での違法ファイル普及や音楽配信サービスの登場が、事業を成り立たせる上で深刻なダメージを与えているように思えます。このように、現在の音楽マーケットは音楽事業者にとって、非常に OUT OF CONTROL な状況にあると僕は考えています。


で、こうした状況を鑑みるに、一部の音楽事業者(殊に財閥資本系A社)の中から「事態を単純化=輸入全面規制」して、全ての事態を掌握可能な「牧歌的な状況」を取り戻したいという考えが生じてきてもおかしくない、と僕は考えるのです。そして、他方で僕は、こうした「海外盤CD輸入禁止」問題の根底にこのような乱暴な思想を感じるにつれ、現在の豊かで質の高い音楽シーンを醸成する礎となった、独自センスで音楽を探求する輸入盤屋やその店員へのダメージや、それに付随して音楽シーンがつまらなくなることを危惧して反対を表明しているのです。だからはっきり言って「値段云々」なんて問題じゃないのです。だって、そもそも、過剰なまでに円安になったら、輸入盤の値段も連動して上がるでしょうに・・・


そういう訳で、基本的にシニカルな僕なのですが、こと「海外盤CD輸入禁止」問題に関しては安易にシニカルな構えを取りたくはないので、悲観論を前提に「反対反対」騒いでるという感じなのです(かつて、音楽配信サービス立ち上げの仕事した時に、音楽事業者に対して感じたことも、僕の悲観論の形成には大きく寄与していたりもしますが・・・)


【追伸】
上記の文章を書いた後で、以下のサイトを読んでいて「いっそのこと一度、日本の音楽産業(メジャー)なんて崩壊してしまった方がいいのかな」とも思いましたよ。だがしかし、そんな「極端な思考」は何にも考えていないのと同義なので、やはりもっときちんと考えないとイカンと思った次第であります。

http://blog.livedoor.jp/memorylab/archives/2004-04.html#20040415
http://blog.livedoor.jp/memorylab/archives/2004-04.html#20040421
http://www.musicmachine.jp/interview/go/
http://www.st.rim.or.jp/%7Ekenta/ (4月10日のコラム)