日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

GHOST / BankART 1929 Yokohama


今夜は、昨日 BankART1929 Yokohama でおこなわれた GHOST のライブについて、私の言語中枢の限りを尽くして脳味噌から血が出るぐらい語ってみたい、と思う(誇張)。

ということでまずは、ライブ本体について語る前に、ライブが行われた場である「会場」と「音響/照明設備」について、説明してみたいと思う。というのは、評論の常套手段として「個々のディテールの説明を積み重ねることで、あたかも全体について豊饒に語った/語られたような錯覚」に、書き手/読み手ともに陥いりがち、という習性を利用しない手はない、と思ったからである(皮肉)。


実際問題、言葉を利用して、直接体験を間接体験に置き換える限りにおいては、「ホントのこと」など何一つ「語られる」ことも「伝わる」こともない、のだ。即ち、体験の伝達に於いては、同じ事象を直接体験したもの同士がその体験を「思い返し参照しあう」ための、文脈限定の指示代名詞的な「ラベル」としてのみ、言語は有効なのであり、直接体験を共有しない者との伝達/共有=体験の間接化(メディア化)局面においては、言語は「個々の身勝手な思い込み」を投影する依り代として、ディスコミュニケーションを蔓延させる温床でしかないのである。


話が著しく脱線した、そう「会場」と「音響/照明設備」なのである。会場の BankART1929 Yokohama は、1929年に建造された床面積300平方メートル、天井までの高さが7メートル以上という石造りの洋館:歴史的建物である。その天井の高さに起因するのか、材質である石に起因するのか、この建物は音の輪郭がぼやける程には深くないが程よく広がる、非常に独特の残響感が特徴的な場所なのである。また、音響/照明設備であるが、PA田口製作所 による、低域から高域までをAcousticに鳴らす空気感と、圧倒的な音圧の打楽器とフィードバックを自然に鳴らすスピーカーシステムが特徴的であった。さらに、OVERHEADS が提供する照明は、幻想的な光彩処理で見慣れた光景を非日常なハレの空間へと変容させ、その様は筆舌に尽くし難いのであった。ところで、会場と照明の空間的な様子は、右の画像により多少はイメージを伝達できるかもしれないが、まぁおそらく何一つ伝わらず、結局のところ「幻想」とか「儚さ」等といった常套句でもって消費されるのみであろう。


さて、次に本題の音について語ろうと思う。 GHOST というバンドを形容する表現としては「幽玄」であったり「アシッドな」といった表現が常套的に用いられており、今回のライブも直近のアルバム「Snuffbox Immanence」のような、日本古来の「幽玄な心象風景」に英国トラッドフォークのような味付けがなされた、意識の焦点を定めやすい、言葉による「言分け」がしやすい演奏になるものと想像していた。

しかし、演奏が始ってみると、そうした「言分け」を拒絶し超越するかのような「圧倒的な抽象」、部分に分解することができない「不分明な全体」を体現したかのような音の塊が延々と続く。そして、斯様な音塊の狭間で、意識を定める術を失った我々聴衆が「時間という感覚を麻痺」させられ始めた頃に突如、圧倒的な強度と音圧で、神々しくループ状に打楽器が打ち鳴らされる。そして、時間の概念の復活と引き換えに、今度はその圧倒的な音圧のループが、我々聴衆の存在を無化してゆく。


こうして延々と、およそ60分近く繰り広げられた「音と光の抽象」、そして「神々しいまでの強度」が我々聴衆を圧倒し尽くした後、休憩を挟み、第二部が始る。第二部は「Snuffbox Immanence」の曲を中心に、言分けによる意識の定立を優しく許容するかのように、時間の具象である「旋律」と空間の具象である「調性」が、幽玄という器に湛えられた水面に浮かぶ蓮の花のように、静かに「たゆたう」ように、時に「激しく」一度解体された意識と感覚を再構築してゆく*1。しかし、一度解体された意識と感覚でのみ受容できるこの光と音は、やはり常套的な通常言語でもって言分け/表現されることを拒む、のである。

ところで、結局のところ、この「光と音の体験」は、これらを直接体験したもののみが共有できるものであり、それ以上でもそれ以下でもない。つまり上述の文章は全て、一言で置換できる簡素な指示代名詞の内容を、冗長なノイズとして撒き散らしたに過ぎないのである。それ故に、最後に共にこのライブを直接体験した相棒であるM嬢に向けて、このライブについて「嗚呼、本当にすごかったよね」と言うことで、私の言及の結語としたい*2
 

*1:セットリストはこの方の記事を参照(多謝) http://d.hatena.ne.jp/eiji00/20060206

*2:要は非常に冗長な前説を饒舌に書き散らしただけ、なのです>このエントリー