日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

アブストラクト・ヒップホップと90年代


昔々のその昔、アブストラクト・ヒップホップと呼ばれるジャンルが存在しました。うら若きヒップホップファンからすると、なんだ DJ PremierLarge ProfessorPete RockA Tribe Called QuestThe Beatnuts なんかのニュースクールな12インチB面インストと何が違うのさ?と言われそうな按配ではあるのですが、アブストラクト・ヒップホップはムーブメント(潮流)として確かに存在していたのです。

かく言う私も当時、アブストラクト・ヒップホップに嵌っていた人間の一人でして、The Mighty Bop や DJ CAM 等片っ端から聴きまくったものでした。で、今なんとなくこの辺り(フレンチ原産)をふと聴き返しているのですが、なんだかどうもコピー&ペーストをダイレクトインなネタ使いが「ドン臭い」というか「無骨な男の山賊料理」なヘボヘボな印象なのです。いや、マジでこれだったら前掲のニュースクール・ヒップホップのディスク達の方が圧倒的にカッコイイじゃんと、例えば&特にで Common の2nd辺りを聴き返した時の印象と比較すると強く思ったりもするのです。

まぁ、アブストラクト・ヒップホップが栄華を極めた90年代中盤はちょうど「Hard Disk Recordingの黎明期」ということもあり、ツールの完成度や処理能力の類が今からは想像できないほどにロースペックだったが故に、今のエレクトロニカ方面のような「編集を感じさせない凝った構成」や「自然に馴染ませる音響処理」ができなかったという技術依存の問題が大きかったのだろう、とは思うのですが、それにしても「こんなにショボカッタっけ?」とナンだかセツナイ気持ちになってしまうのでした(もちろん00年代以降は逆に、コピペ&ダイレクトインが権利関係上より激しく難しくなって自然音や楽器音の天然サンプリングに移行せざるを得なかった、という大人な事情もありかとは思いますが)。


で、ここで「そうだ!」と思い返して引っ張り出したのが下記のディスクなのであります。


FIRM ROOTS

FIRM ROOTS


この Silent Poets も当時聴きまくっていたユニットのひとつだったのですが、然るにこの三枚目のアルバムだけは「出色の出来」というか、時代を超越した完成度なのではないかと思った次第なのであります。というのは、当時にしては異色な「編集を感じさせない凝った構成」や「自然に馴染ませる音響処理」が施されていて(アンビエント的なんてな評価もされてたみたいですが・・・)、なおかつ今のエレクトロニカ周辺では不可能な、ローファイ故の「ザラザラ」した質感で「極太」な音圧が醸し出すエモイワレヌ雰囲気がタマラナイ、そんな印象なのです。

ということで、この作品こそは、いわゆる音楽家的な調性や旋律に対する「整然とした感覚」とは全く異なる、ヒップホップならではのテクスチャーの配合/配置に関する独自の嗅覚&感性と、日本的な静溢の感覚&ストイシズムがうまく融合された奇跡的な所産なのではないか、などと大袈裟なことを感じてしまったりもするのです。が、しかしながら、このような名盤が廃盤として時代の流れの中で埋もれ、再発掘されることもなく消えてゆくとするならば、それは非常に勿体無いことであると、強く思う次第であったので、そうした想いを「オッサンの呟き」として、ブツブツここに書き連ねておくこととしまスた。