日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

アメリカの退屈


「Uncommon Places: The Complete Works」 Stephen Shore (著) ISBN:1931788340


上記は前々から欲しかった写真集で、このとこの BRUTUS とか STUDIO VOICE の写真特集で再発版が発売されたのを知り入手した、云わば定番とも言うべき作品。で、写真に疎いこの私が、何故に写真集など買うのかと言えば、そこにはアメリカ地方都市*1の 「空気感 of 尋常ならぬ退屈」 が刻銘に切り取られているから、なのである。

基本的にどの写真にも、空気の流れが停まったかのような、あるいは時計の針の進み具合がまるで3分の一にでもなったかのような、或いは照りつける太陽の光が三倍の重力で人間の精神を地面に押しつぶすかのような、とても重苦しい空気感が漂っている。狭くて小さい町、限られた娯楽、限られた職業、限られた人々、限られた選択肢、そして無限とも思える時間、無限とも思える自らを取り囲む荒野に佇む小さな家での暮らし。明日も同じ日々が平坦に続き、ルーティンのように働き、酒を呑み、寝る毎日と週末のささやかな娯楽、あるいは意味もなく消えては流れる「光と喧騒を撒き散らすテレビ」を力なくダラダラと見つめる日々。

欧州の地方都市とは何かが異なる、虚無感と退屈がそこ*2には漂って見えるのだ。そして、こんな場所だからこそ、アメリカの文学は、その空想力、妄想力が自然と育まれていった、のではないかと思うのだ*3


【補足】

ドイツ人が見たアメリカの退屈はコレ
「Written in the West」 Wim Wenders (著) ISBN:3823854690
 

*1:というか街ではなく町レベル

*2:アメリカの地方都市

*3:身近に伝説や伝承が散在していない分、SFや幻想小説としての「突飛さ」は欧州文学や南米文学よりもアメリカ文学の方が図抜けていると思うのだ