日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

2010年の音盤探索模様を振り返る/其の弐【街レコ】編

今年は「大洋レコード」⇔「HMV渋谷/山ブラ」⇔「雨と休日」の三点をグルグル回ってた印象が非常に強い一年でした。なぜ「HMV渋谷/山ブラ」が真ん中かというと、セレクトが双方と相通じる「ハブ」的なところがあったから、といえばよいのでしょうか(もちろん各々のセレクトには、被らない領域も当然ながらイロイロあって、それで三点をグルグル回っていた、のです)。ということで、その三点巡回の共通項部分に着目しつつ、今年気分な音盤を二枚ほど選んでみます。なお、「HMV渋谷/山ブラ」については、過去エントリー「HMV渋谷「山ブラ」は理想のCD屋さん、だった」にボクの想いを綴ってます。



Coiffeur / El Tonel de las Danaides試聴】【購入
このアルバムは、「大洋レコード」の新入荷情報を見て気になってて、お店に行ったら既に売り切れちゃってて、もう「ア〜どうしよう&シクシク…」って途方に暮れてたところ、ぷらっと立ち寄った「HMV渋谷/山ブラ」に奇跡的に一枚だけ残ってて、オッサンだけど「ワーイ」と無邪気に歓喜して購入した嬉しい一枚。
この Coiffeur さんは、アルゼンチンの次世代SSWのひとりで、2007年と2009年のベストアルバムにあげたリサンドロ君と比べると、フォルクローレ色が控えめで、近年の次世代アルゼンチンSSWな作品に耳が慣れてなくても、一見すると普通に近年の「無音がアクセントになった、高解像度な音響的なフォークトロニカ」として聴けてしまう感じ。そして、基本はクリーントーンのギター・アルペジオと「少々ビターで、囁くようにカボソくて、霞んだ感じ」の彼の声が主体で、それらを浮遊感漂うテクスチャーとしてのアコースティックな音響(環境音やINA-GRM的な電子音を含む)が「シンシンと降り積もる雪」のように静かに/重層的に「声とギター」を包みこむ感じというか、大河をタユタウようにゆったりと時間が流れてゆくというか…とにかく今年を代表する「静かな名盤」だと思います。



Richard Crandell / In the Flower of Our Youth試聴】【購入

次は「雨と休日」関連の一枚ということで、この Richard Crandell さんについては、まず最初に「雨と休日」で「これを聴けば音冷房効果で涼しくなる=猛暑から逃避できるに相違ない」とムビラ(親指ピアノ)によるインスト作品 "Mbira Magic” を購入したのが入り口だったのでした。というキッカケ起因で、Richard Crandell さんのことを「ムビラ奏者」だとばかり思い込んでいたのですが、その後「HMV渋谷/山ブラ」で、ギター奏者としてのRichard Crandell さんの存在*1を知り、上掲のアコースティック・ギター作品(インストのみ)を購入したのでした。
ところで、この作品は1980年の作品なのですが、なんだか Ryan Francesconi青木隼人さん等による「アコースティック・ギターによるインスト諸作品」と相通じる感じがして、非常に2010年にドンピシャリな作品(より限定的に言えば、2010年のボクにとって、ですが)だなぁと思うのです。そして、これらの作品に共通するのは、フィンガー・ピッキングによるアルペジオ主体で、なんというか「クラッシック・ギター」のようでもあり「オールド・カントリー」や「スラック・キー・ギター」のようでもあり「トラッド・フォーク」のようでもあるけども、それらとは「何かが違う音」であるということ、なのです。その違いを具体的に言えば、「古さ」や「懐かしさ」ではなく、おそらく独自の感性に基づくオープン・チューニングを施したギターで「アルペジオという時間差による脳内補完で調性を間接的に感じさせる手法で具現化している」からなのか、そこには、なんだか「個から遡って探求」された「普遍的な内面の奥底の抽象」が封じ込められている感じがして、「古典だったり、流行りだったり、形式だったり、技術だったり」という「非個人的な基準に立脚していない印象」を抱くから、なのではなかろうか、なんてことを思うのでした。

*1:元々はギター奏者だったそうですが、持病の影響でギターから後年ムビラに持ち換えたそうです