日々常套句

2003年からホソボソと「退屈に関する思索」を亀の歩みで行う退屈研究ブログ(自称)です

2010年の音盤探索模様を振り返る/其の参【今年の一枚】編


Sun Kil Moon / Admiral Fell Promises試聴】【購入

彼是20年近く、コズレックさんの音楽を聴き続けてますが、2010年リリースの本作は、コズレックさん作品の中で一番好きな一枚になりそう & 2010年のベストアルバムだと思うのです。ちなみに、ボクがどれぐらい彼の音楽が好きかについては、2008年に書いた「MARK KOZELEK 来日公演」というエントリーで「その想い」を綴っています。

ところで、2010年の自分の「音盤探索模様の特長」を事後的に振り返ると、気がつくと「ギター」の音を無意識的に、それもフィンガー・ピッキングによるアルペジオハーモニクス主体で「古そうな装いで新しい、馴染みのようで馴染みでない音」を聴いていた、という点でしょうか。同じようなことは既に 昨日のエントリー でも書きましたが、このアルバムも同様に「クラッシック・ギター」のようでもあり「オールド・カントリー」や「スラック・キー・ギター」のようでもあり「トラッド・フォーク」のようなアルペジオが主体ではあるけれども、それらとは「何かが違う音」なのです。そして「その感覚」は、昨日取り上げた Richard Crandell さんや Ryan Francesconi さんや 青木隼人さん等のインスト作品と相通じるモノがあるように思えるのです。

そして、非常に感覚的な物言いだけど、おそらく表面的かつ一般的な印象は「地味でオーソドックス」な音に映るンだろうけど、実は「非常に新しい音」なんじゃないかということを、脳ミソの奥から波紋のようにひろがる「直観」によって、ヒシヒシと感じるのです。いや、「新しいとか古い」とかっていう表現は妥当じゃない、どちらかと言えば「独創的かそうでないか」って方が正しいのか、いや其れだけでは上述のギター諸作と通底する同時代性を捕捉できないし、この作品が内包する普遍性を無視することにもなるし、しかし他に類する作品を見いだせない唯一性も無視できないし、ギターだけでなく二重録音されフクヨカに奥行きを引き出された「彼の声の魅力」という要素も云々…と、この「歴史的な名作」を表現する「適切な言葉」を獲得できない自分が、物凄く「残念」で「歯痒く」感じられるのです。

現時点のボクに書けること、それは、この作品が「現在の情報消費社会の具体的な風景や感情や具象的な存在を超越した先で、極めて現代的で在りながら普遍的でも在る、或る『抽象』が成立する場所に於いて静かに鳴る音」とでもいうような、そんな至福の音に静かに厳かに包まれる、そんな大切な一枚である、ということなのです。それは、「メランコリー」という言葉では、恐らく照射することはできない、そんな気がするのです。